2015.04.28
『ラ・トラヴィアータ』―道を踏み外した女
今回は、タイトルのお話を少し。日本では、デュマ・フィスの原作タイトル『椿姫』(原語でLa dame aux camelias、「椿の花をつけた淑女」の意)がオペラのタイトルとしても一般的ですが、ヴェルディがつけたタイトルは『ラ・トラヴィアータ』。椿の花とは関係がなく、「道を踏み外した女」「堕落した女」を意味します。前回お話したように、カトリック的な道徳観を強く持っていたというヴェルディにとっては、戯曲に感銘を受けたとはいえ、高級娼婦という存在はやはり「道を踏み外した女」であるように映ったのでしょう。だとしたら、原作者のデュマ・フィスにとっては、心外なことだったかもしれませんね(もっとも、検閲を通すためにこのようなタイトルになったとも考えられますが)。
ちなみに、そもそも日本で『椿姫』と訳したのは長田秋濤(おさだしゅうとう)というフランス文学者で、その訳本は明治36年(1903年)に刊行されました。オペラでも『椿姫』の名で、大正7年(1918年)、のちの「浅草オペラ」の人気歌手たちを生んだ「ローヤル館」において日本初演され、広く大衆に親しまれる人気演目となったようです。そして、日本においては今日に至るまで、このタイトルですっかり人気を誇っています。