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2025.05.13

ぜひ「初めての体験」をご一緒できたら──塩崎めぐみ(メゾソプラノ、マリー役)インタビュー

ぜひ「初めての体験」をご一緒できたら──塩崎めぐみ(メゾソプラノ、マリー役)インタビュー

国内外で活躍する実力派メゾソプラノ、塩崎めぐみさん。芸術監督プロデュースオペラへは初登場となります!歌手を目指したきっかけやその思い、また、今回の役、ゼンタの乳母であるマリーについてうかがいました。

鳥取大学農学部農林総合科学科をご卒業なさったのち、武蔵野音楽大学大学院、新国立劇場オペラ研修所を経られて、現在は海外でも活躍されています。声楽家を志したきっかけや、その経緯について、お聞かせください。

私は鳥取県の鹿野町というところの出身なのですが、そこでは、町おこしの一環で、町民ミュージカルというものを50年近く行っています。私も中学生の頃からコーラスに入ったり、キャストとして歌ったりと参加していて、それが舞台音楽を大好きになったきっかけでした。そのコーラスを指導してくださった方が、地元でオペラをされていたんです。その先生のもとで、オペラの裏方スタッフ全般を長い間させてもらいました。
そうしたら、たまたまキャストが休みの時に、ちょっと代わりに歌ってみなよ、というような感じで歌わせていただく機会があって。その後もあくまで趣味として歌っていたのですが、大学を卒業して、地元の銀行に3年ちょっと務めたころに、やっぱり、どうしても一度ちゃんと歌を勉強してみたいという思いが強くなったんです。
鹿野町はものすごく田舎なので、ちょっと大きな声を出すと、山びこで返ってくるという環境だったということもあり、私の中で、大きな声で気持ちよく歌を歌うというのが割と自然なことだったんですね。小さい頃から歌が好きで、けれど、歌では食べていけないからと我慢して、地道に生きていこうとしたのですが、やっぱりだめでした。高校時代も合唱部に入っていて、3年生の時に県高校総合音楽会の声楽部門で1位をとったのですが、代表として全国大会に出ようという際、進学との兼ね合いであきらめた、という経緯もありまして……ずっと、ふつふつとしたものが自分の中にあったのだと思います。大学でも、スタッフとしてオペラに関わり続けながら、その思いが溜まりに溜まってしまったのでしょうね。上司にも家族にも猛反対されたのですが、銀行を辞めて、武蔵野音大の大学院に進み、海外で研鑽させていただきました。
今となっては、夢見た場所に立っているというか、すごい世界があるんだなと嬉しさをしみじみと噛みしめながら、勉強させていただいているという気持ちです。ひとつひとつの舞台に地道に取り組んでいけば、また次のステージが見えてくるのかなと思いますので、巡り合えたひとつひとつの本番を大切にやっていこうと思っています。

『さまよえるオランダ人』という作品や、今回の役・マリーについて、お聞かせください。

お客様によっては、身を捧げることによる救済、という作品のテーマ自体、ちょっと硬い感じがするというか、ワーグナーは少し敷居が高いなと感じられてしまったり、高尚なもののように思われるかもしれません。けれど、すごく壮大な音楽の、そのエッセンスをとって、呪いだ、愛だ、というように受け止めれば、それこそディズニーであったり、『眠れる森の美女』や『美女と野獣』といった、とても親しみやすいお話とも通じるものがあるように思います。あくまで、そうしたお話を、ワーグナーという人が作るとこうなる、というギャップが、この作品の一番面白いところではないでしょうか。
マリーについては、自分がオランダ人のお話をゼンタにずっと歌い聴かせてきた結果、ゼンタがこんな風になってしまったという罪悪感のようなものがあるのだと思います。いつも夢見心地のゼンタに対し、現実の社会でちゃんと生活できるようにと、彼女のためを思って乳母の立場で教育している。この作品に出てくる人物って、ちょっと現実離れしている人が多いのですが、その中でマリーは、とても身近に感じられるキャラクターで、なんだか落ち着くというか、私も共感できる部分が多いです。地に足をつけて働いている女たちが、航海から帰ってくる男たちを待っているというシーンなので、初めて『さまよえるオランダ人』を観る方でも安心して観られる部分なのかなと思います。

当センターの芸術監督プロデュースオペラへは初出演となりますが、期待していることなどはありますか?

実は、10年以上前に、「チケットを売り切る劇場(垣内恵美子、林 伸光著/2012年 水曜社刊)」という本を読んで、兵庫にこんなにすごい劇場があるんだなと思っていたのです。地元にも愛されていて、芸術性の高いパフォーマンスをされていて、これはものすごい劇場ができたんだなという認識を持っていました。関西の知人からも、佐渡さんのオペラには欠かさず行くんだ、という話も聞いていて、今年は私がそんな場所に参加させていただけるんだと思うとものすごく嬉しくて。その一方で、ちょっと身の引き締まるような思いもあります。あのとき本で読んだ劇場の舞台に立つんだなと。

佐渡裕芸術監督や、今回の共演者については、いかがですか?

佐渡さんは、私にとってはもうとにかく遠い存在というか、ものすごくエネルギッシュなパフォーマンスをされる方、というイメージがあったんです。けれど、今回佐渡さんに声を聴いていただいて、出演させていただけることになり、本当にとても嬉しくて、楽しみだなと感じています。共演する方も、本当にみなさん素晴らしい方ばかりなので、勉強させていただくつもりで、ぜひ頑張りたいと思います。

当センターのお客様へ向けて、ひとことお願いいたします。

幽霊船とか、呪いとか、そういった言葉だけを聴くと、ちょっと怖いなと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。扱っている内容は意外と身近で、そうした身近なものを、ワーグナーが手掛けると壮大な音楽になった、というギャップこそが本作の面白さだと思います。私自身も、一般大学の農学部を出て、銀行に勤めてから、はじめてワーグナーを勉強した時、最初はとても難しく感じていました。けれど、結局は、そのキャラクターのテーマ曲というか、その曲が流れたら、そこに登場人物が出ていなくても、このキャラクターのことを回想したりして表現しているんだなっていう、いまでこそ映画やゲームで普通に演出として用いられている手法が「ライトモティーフ」です。どうしても、ワーグナーの、というと高尚な言葉になってしまいがちですが、それを置き換えてみると、実はすごく身近なんだっていうことが分かっていただけると思うんです。高尚であることこそが良い、という方もいらっしゃるので、その塩梅が難しいなとも思うんですけどね(笑)。
それから、これはきっとみなさんおっしゃるだろうと思うのですが、初めてワーグナーを観るなら、絶対に『オランダ人』を最初に鑑賞されるのがよいと思います。ぜひ、「初めての体験」をご一緒できたらと思います。

ありがとうございました!

■公演情報■
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2025「さまよえるオランダ人」

【全3幕/ドイツ語上演・日本語字幕付/新制作】
2025年7月19日(土)~27日(日) ※22日、25日は休演
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
★塩崎さんの出演は20、23、26日です。

■「さまよえるオランダ人」特設ウェブサイトはこちら■

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