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2024.01.05

【オペラがもっと楽しくなるコラム】「私とオペラ」連載 第3回

【オペラがもっと楽しくなるコラム】「私とオペラ」連載 第3回

オペラ・キュレーターの井内美香さんによる連載「私とオペラ」。第3回となる今回は、イタリアの舞台の裏事情について、イタリアならではの特徴や、クスっと笑える裏話などをお話してくださいました。ぜひお楽しみください。

私とオペラ③
イタリアの舞台の裏事情

イタリアの色々な町の歌劇場を見てきました。イタリアの仕事場は当然のことながらイタリア人の気質を反映しています。日本の場合は一般の企業も劇場も基本的には、大きめな部屋に皆の机が並んでいて、偉い人だけ個室を持っていることが多いと思います。一方イタリアの場合は各自が個室を持っていることが多いのです。総裁、芸術監督、キャスティング責任者、プロダクションマネージャー、美術部門責任者、演出部、それに大道具、小道具、照明、衣裳、履物、メーク&かつらなど舞台裏スタッフの部屋も。イタリアは個人主義の国なので、オフィスも個室が好きなのですね。

長年仕事の付き合いがあったボローニャ歌劇場のプロダクションマネージャー、ステファーニアのオフィスには、おもしろ文具やお菓子などが溢れていて、壁にはお気に入りアーティストとのツーショット写真がたくさん貼ってありました。

自分の個性を仕事場に持ち込むイタリア人は、劇場に彼らの家族をも持ち込みます。私が知っていたある歌劇場の音楽スタッフさんは、小学生の息子さんをよく劇場に連れてきていました。本番の舞台裏に息子さんがいたことも覚えています。

イタリアの歌劇場では小型犬もよく見かけました。ロッシーニのオペラ・ブッファを歌わせたらピカイチだったある大柄なバリトン歌手は、いつもチワワと一緒。彼の出演中、チワワは楽屋にいたり、楽屋エリアの廊下で皆に可愛がられたりしていたのです。

歌劇場専属のカメラマンで、いつも愛犬と一緒だった人も知っています。やはり小型犬で、このワンちゃんは劇場総裁のお気に入りでした。カメラマンがゲネプロの写真を撮っている間、総裁がワンちゃんのリードを持ってお守りをしながら舞台を観ている、ということもあったそうです。

すべての人が自分の家族やペット(犬がデフォルトで猫を連れている人は聞いたことがありません…)を劇場に連れてきてしまったら仕事になりませんが、そこはイタリア、阿吽の呼吸というのでしょうか?歌手なら主役級だったり、劇場の従業員なら、まああの人なら…というムードが醸し出されればそれでOKなのです。話によると、イタリアでも10年ほど前に規則が厳しくなり、公演に関係のない家族や動物を入れることは(表向きは?)禁止されたそうです。子供や動物のいる劇場の雰囲気はリラックスできて私は嫌いではなかったので、イタリアの歌劇場も合理化されてしまったことは、ちょっと残念にも思うのでした。

井内美香(オペラ・キュレーター)

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