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2024.06.05
関連企画≪「蝶々夫人」ワンコイン・プレ・レクチャー≫を開催しました!
500円で気軽に楽しくオペラの予習ができる毎年好評のワンコイン・プレ・レクチャー。今年は、講師に日本を代表する演出家として活躍する中村敬一さん、生演奏にバリトンの晴雅彦さん、ピアノの掛川歩美さんをお迎えし、「バタフライはバタ臭い!?~プッチーニの蝶々さんは日本人なのか、イタリア人なのか?~」と題して開催しました。
お話の内容を一部ご紹介します!
講師・中村敬一さん
日本を舞台にしたイタリア・オペラ
プッチーニが作曲したオペラは、三部作を3作と数えると全部で12作ありますが、そのうちイタリアを舞台にしているのは「トスカ」「修道女アンジェリカ」「ジャンニ・スキッキ」の3作品だけで、そのほかはパリやカリフォルニア、中国など、プッチーニにとっての外国を舞台としています。
プッチーニは「蝶々夫人」の原作を知って日本を舞台にした物語に興味を抱き、自身でも日本について研究します。そして、音楽に日本的なメロディを採り入れたことは有名ですが、実はそれらは場に合わない使われ方をしている、と中村さんは指摘します。プッチーニにとっては、非西洋的なメロディを取り入れることで、当時の西洋音楽で拡張しつつあった音楽的な自由度を増し、新しい音楽を作り出すことを達成したのであって、正確に“日本を再現する”ことが目的ではなかった、と考えられます。そこには、日本そのものではなく“プッチーニの思い描く日本”が映し出されていたのです。
栗山昌良氏の演出―“バタ臭い”バタフライとは?
中村さんは、これまでに演出助手として故栗山昌良氏のもとで何度も仕事をしてこられました。栗山氏は2006年兵庫での「蝶々夫人」を演出するまでに、数多のプロダクションで演出を手掛けています。東京二期会での演出を経て、新国立劇場での演出に取り組む際、中村さんに「今度はバタ臭いバタフライにしようか」とつぶやかれたそうです。それは外国人の歌手を招聘したプロダクションだったこともあり、「日本人のためだけの『蝶々夫人』ではだめだと思われたのではないか」「日本人ではなく、イタリア人である作曲家の思い描いた日本を描くことを、“バタ臭い”と表現されたのではないか」と中村さんは振り返ります。
兵庫において栗山氏が「蝶々夫人」を演出されたのはそのあと。中村さんは、兵庫での上演の映像を観た時、「“日本人のための演出”というべき二期会のバージョン、そして“プッチーニのための演出”であり、海外の人の目を意識した新国立劇場のバージョンを経て、そのどちらをも両立し、最終的に栗山先生がたどり着いた演出」という印象を受けたといいます。
お楽しみの生演奏!
今回、歌唱の実演を担当してくださったのはバリトン歌手の晴雅彦さん。佐渡裕芸術監督プロデュースオペラでは最多出場とお馴染みで、2006年の初演、2008年の再演と「蝶々夫人」にはゴロー役で出演されました。この役は、「ゴロー役で彼の右に出るものはいない」と栗山氏もお墨付きを与えた当たり役で、約30年間歌い続けている役とのことですが、今回は、蝶々さんに求婚する富豪のヤマドリを初めて演じられます。
レクチャーでは、お一人で歌えるヤマドリの歌唱箇所がない…ということで、特別にゴロー、シャープレス、そしてなんと蝶々さんのパートも歌われるという貴重な一人3役をご披露くださいました。
“手紙の二重唱”でシャープレスと蝶々さんを歌い分ける晴雅彦さん。ピアノは掛川歩美さん。
栗山昌良氏のエピソード
中村さん、晴さんとも長年にわたり栗山氏と仕事をされてきました。中村さんは、栗山氏がもともと日本演劇の第一人者・千田是也のもとで学び、オペラではなく音楽劇の世界から出発した演出家であることを説明。演劇的な演出を日本ではじめてオペラに持ち込んだ立役者であるほか、日本舞踊にも通じていて舞踊的な要素も持ち、ご自身でも華麗な所作の見本を示されたそうです。
20代前半から栗山氏の演出する作品に出演していたという晴さんは、「とても厳しい方で、『お客様を裏切ってはいけない』と常におっしゃっていました。歌手としてはどうしても役に入り込んで、その役の視点で演じてしまうのですが、先生は、ドラマトゥルギーを考え、ドラマの中で役のあるべき姿を考えなさい、足の一歩、手や目の動きすべてに気を配りなさいと説かれました。今も、舞台に立つことの教則本となっています。」と振り返りました。
栗山氏について「稽古場では厳しいが、終われば外ではとてもあたたかい方だった」と振り返るお二人
このほかにも、蝶々さんのモデルについてや、これまでに蝶々さんを演じた歌手のお話など、盛りだくさんな内容に。質疑応答も交えて、7月の本公演に向けてたっぷり予習ができた90分でした。
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2024「蝶々夫人」
2024年7月12日(金)~21日(日) 全8公演 各日2:00PM
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
公演の詳細はこちらから