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2024.09.10

【見どころ聴きどころ①】バロック・オペラ・エボリューション 濱田芳通&アントネッロの「オルフェオ」

【見どころ聴きどころ①】バロック・オペラ・エボリューション 濱田芳通&アントネッロの「オルフェオ」

2025年2月に開館20周年記念公演として芸術文化センターで上演するバロック・オペラ「オルフェオ」。その聴きどころを、指揮:濱田芳通さん、演出:中村敬一さん、オルフェオ役:坂下忠弘さんのコメントを交え、オペラ研究家の岸純信さんにご紹介いただきます!

演奏集団アントネッロ モンテヴェルディ《オルフェオ》に寄せて
岸 純信 (オペラ研究家)

ギリシャ神話に基づくモンテヴェルディ作曲のオペラ《オルフェオ》(1607、マントヴァ)。詩人オルフェオは、愛妻を失って嘆くあまり、黄泉の国で「妻を返してくれ」と切々と訴える。その結果、夫妻は地上に向かうが、「振り向くな」という言いつけに背いたことで、妻は再び地の底へ。慟哭する詩人の前に、父神アポロが降臨し、諭した結果、オルフェオは昇天。宇宙を隔てて妻の魂と見つめ合う・・・

まるで、日本神話に七夕伝説を足したかのようなこの《オルフェオ》は、オペラ史黎明期の傑作中の傑作。同時代と比べてモンテヴェルディでは「音のエネルギー」が数倍量にもなり、他者の作が自転車なら《オルフェオ》は自動車と呼びたいぐらい、音楽の馬力が違うのだ。

それゆえこの傑作は上演が廃れない。今回は、兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールと神奈川県立音楽堂という、古いオペラには最適のサイズの2館で来年2月に公演とのこと。指揮者濱田芳通、演出家中村敬一、主演のバリトン坂下忠弘に抱負を訊ねつつ、その奥深さに触れてみよう。


濱田:
「僕にとっては神聖な作品です。子供の頃に出会い、いまだに敬意あるのみです。今の僕は、ルネサンス期の音楽に深く傾倒していますが、この《オルフェオ》は、ルネサンスの流れが導きだした初期バロックの傑作ですね。モンテヴェルディには、フィレンツェで同じ物語の《エウリディーチェ》(1600年、ペーリ作曲)を生み出した、カメラータの面々への対抗意識もあったのかもしれません。冒頭で、適当な神話の神ではなく、『音楽の神ムジカ』に歌わせるというところにも意気込みを感じます」。

ちなみに、この「初期バロック」を考えるうえで、濱田には外せない言葉がある。それが「レチタール・カンタンド Recital Cantando」という様式である。

濱田:「歌のソロが、どれも『語り』のようなんです。でも、後代のレチタティーヴォに比べて、レチタール・カンタンドでは何より、起承転結のような構成感が出ます。今回の《オルフェオ》では、作品の中核をなすそのレチタール・カンタンドの新しい捉え方に挑戦したい。ただ、全曲中のソロの中には、冒頭のムジカの歌や、黄泉の王妃プロゼルピナの曲のような、後のアリアに近いような曲もあります。そうなると、装飾の付け方も他の部分とは異なってきますね。本番まで試行錯誤が続きます」。

ここで中村が発言。

中村:「17世紀の当時、作曲家は、自分の周りに居た歌手たちの資質を分かったうえで、彼らの個性を音符に反映させていたと思います。今回、演奏集団アントネッロと一緒に活動する優れた歌い手たちも、『チーム濱田』としてみな集まってきたわけなんですよ。みな熱心に稽古に参加してくれそうです」

濱田:「演奏スタイルの統一が大切ですから、いつもご一緒して下さる皆さんには感謝あるのみです」。

そこで、この《オルフェオ》独自のエンディングに話題が移る。アポロが息子に「お前は喜びすぎ、悲しみ過ぎたのだ」と言い含めるという -ハッピーエンドではないが、悲劇でもない- 不思議な余韻の残る幕切れである。

中村:「なんというか、『正しく生きる』といった感じの終わり方ですね(笑)。音楽の中にお話が浄化されてゆく、希釈されていくような」。

濱田:「だから、そこが音楽表現として、一番難しいんですよ。15世紀の《オルフェオ物語》(オペラ史前のオペラと呼ばれる作)だと、神話通りに主人公が殺されます。でも、モンテヴェルディの結末は曖昧。ただ、本作のこの終わり方は感動的で、後の時代にに絶大な影響を与えたようです。その辺りも今回は突き詰めたいですね」。

中村:「稽古場でどんな発想が出るか、僕も愉しみです。何しろ濱田さんは『宇宙人』だから(笑)。宇宙から音楽界を俯瞰したかのように、もの凄い量の曲を把握され、その蓄積から新しい世界を作られますからね。オペラ制作の現場は変わらず予算的にも厳しいですが、今回は日程も凝縮させ、良いものをお届けすべく、みな励んでいます」。

そこで主演の坂下からも一言。いつも冷静な彼は、オペラの現場に漂いがちな「外連味」を感じさせない、不思議な歌い手である。

坂下:「濱田さんとご一緒すると、歌っているうちに『欲』が無くなるんですよ。もう15年ほどのお付き合いですが、ひたすらそのまま歌うのみ・・・僕は本番で一切水も飲まないし、歌い終わった後に食欲も出ないので、周囲から不思議がられますが(笑)、そういう欲だけではなく・・・でも、濱田さんの稽古場は本当に面白いです。毎回、最初にバーンと仰ることに歌手たちはついてゆけず、『なんで?』とは思うんですが(笑)、先生は過去の楽譜に対するリスペクトが凄く、そこから導き出したポイントを最初に提示されたんだと、後から分かってきます。だから、最終的に納得して歌えるんですね」。

濱田:「坂下さんは本当に、『音楽の精が歌う』かのように表現されます。繊細です」

中村:「彼とチーム濱田の良き皆さんと、充実したステージを作り上げます!」

◆上演概要◆

[指揮]濱田芳通 (オフィシャルサイト)
[演出]中村敬一 (オフィシャルサイト)

[出演]
オルフェオ:坂下忠弘 (オフィシャルサイト)
エウリディーチェ:岡﨑陽香
ムジカ/プロゼルピナ:中山美紀 (オフィシャルサイト)
メッサジェーラ:彌勒忠史 (オフィシャルサイト)
スペランツァ:中嶋俊晴 (オフィシャルブログ)
プルトーネ:松井永太郎
ニンファ:今野沙知恵
牧人:中嶋克彦 (オフィシャルサイト)
牧人/精霊:新田壮人
牧人/精霊:田尻健 (オフィシャルブログ)
アポロ:川野貴之 (オフィシャルサイト)
カロンテ:目黒知史

合唱:田崎美香
合唱:近野桂介 (オフィシャルサイト)
合唱:酒井雄一

管弦楽:アントネッロ
ヴァイオリン 天野寿彦 吉田爽子 宮崎蓉子
ヴィオラ 丹沢広樹
ヴィオラ・ダ・ガンバ/リローネ 武澤秀平
ヴィオローネ 布施砂丘彦
コルネット 濱田芳通 細川大介
コルネット/ナチュラル・トランペット 得丸幸代
サクバット 南 紘平 野村美樹 栗原洋介
ファゴット 長谷川太郎
リコーダー 織田優子
リュート 高本一郎
ハープ 伊藤美恵
チェンバロ/ハープ 曽根田駿
オルガン/レガール 上羽剛史
パーカッション 立岩潤三

共同制作:兵庫県立芸術文化センター/神奈川県立音楽堂/アントネッロ

日時:2025年2月15日(土)、16日(日) 2:00PM
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
入場料:A12,000円 B8,000円 C5,000円(消費税込)
チケット発売日:9月5日(木)センター会員先行予約開始/10月20日(日)一般発売
問合せ:芸術文化センターチケットオフィス 電話0798-68-0255
主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
ご予約は公演カレンダーより

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ワンコイン・プレ・レクチャー
いま聴きたい感じたい!バロック・オペラ『オルフェオ』の魅力

10月30日(水) 11:30AM/2:30PM 阪急中ホール
全席指定500円(税込) 発売中
講師:濱田芳通、中村敬一 ゲスト:中山美紀、坂下忠弘、高本一郎
ご予約は公演カレンダーより

公演前日!トークセッション
2025年2月14日(金) 11:30AM 阪急中ホール
濱田芳通、中村敬一が公演前日の舞台でトーク!
※入場無料(要事前申込)・自由席
お申込みはこちら

神奈川公演のご案内
2025年2月22日(土)、23日(日・祝) 2:00PM 神奈川県立音楽堂
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