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2025.02.27

オランダ人の“苦悩”とは──髙田智宏(バリトン)インタビュー

オランダ人の“苦悩”とは──髙田智宏(バリトン)インタビュー

約20年にわたり、ドイツの歌劇場で出演を重ね、「ドイツ宮廷歌手」の称号を持つ髙田智宏さん。芸術文化センターには2013年「セビリャの理髪師」で初登場以来、7度目の登場になります。主要な役で多彩に活躍してきた髙田さんが今回務めるのは、呪われし運命の男、オランダ人。現在所属するカールスルーエ・バーデン州立歌劇場で忙しく活躍される中、お話をうかがいました。

ドイツでは、北のバルト海に臨むキールの歌劇場に13年間在籍された後、現在はドイツ南西のカールスルーエで活躍されています。

キールは、ゆったりとした雰囲気のある街でしたが、カールスルーエの方が劇場の規模も大きく、お客様も厳しい目で劇場に来られているかもしれません。
私がカールスルーエに移籍したのは2020年9月でコロナの真っ只中。予定通りに公演を開催するのが難しい状況だったため、なおさら認知されるのに時間がかかりましたが、先日、初日を迎えた『道化師』の公演後には「良かったよ」と声をかけていただくなど、お客様にも徐々に認めていただけるようになったと感じます。

ドイツの歌劇場はレパートリーが幅広く、高田さんも60を超える役を歌われているそうですね。ワーグナー作品にも多数出演されています。オランダ人役はいかがでしょうか?

実は、オランダ人は初めての役なのです! 今回のお話をいただいたときは、不安もありました。ワーグナーは一筋縄ではいきませんからね。
でも、何年か前、キール時代にお世話になったコレペティの方が辞められるときに私に「ぜひ、10年後に歌ってくれ」と、渡してくださったのが『さまよえるオランダ人』のスコアだったのです。その時は思わず、「こんなにすごい役が自分に歌えるのか?」と答えてしまいましたが、彼が「必ず歌える」と言ってくれた言葉が今、現実となり、運命を感じています。

“一筋縄ではいかない”とおっしゃるワーグナー、歌う側は高い歌唱技術が求められます。

オーケストラが厚いので、ドラマティックに歌おうとしてしまうのですが、一方、たくさんの音がある中で、いかに言葉を乗せていくかが重要になります。子音の使い方、どういうタイミングでどういう色を乗せるべきか、一つ一つ丁寧に読み込んでいかなければなりません。
役について、オランダ人は“苦悩”という言葉で片づけられないほど、追い詰められ、裏切られ、絶望している。それは音楽の中にも表れていて、例えば「オランダ人のモノローグ」では、音楽がなかなか解決しない。やっと長調で終止したかと思うとまた短調に戻ったり…。まさに魂がさまよい続けている、という感じです。

聴く方も共にオランダ人の苦悩を追体験することになるのですね。では、ワーグナーの面白さはどこにあるのでしょうか?

歌手としても、聴衆としても、物語に惹きこまれすぎて、“時間がどこかに行ってしまう”のがワーグナー作品です。
そして『オランダ人』はワーグナーの彼らしさが初めて出てきた作品で、手に汗握りながら、壮大なオーケストレーションの中、あっという間に観られます。
ワーグナーは『オランダ人』の作曲前、リガからバルト海、北海を通ってパリに航路で向かったときに激しい嵐に遭ったといいます。私もキールからノルウェーのオスロに船で行ったことがあるのですが、北海に出たとたん、海がものすごく荒れるのです!『オランダ人』の音楽にはそんな海の荒れ狂う姿が反映されていて、聴けば聴くほどその情景が目に浮かびます。

 

2018年「魔弾の射手」カスパー役での出演

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラは7度目の出演となります。

兵庫は日本での第二の故郷のようなもの。今では実家のある静岡よりも滞在期間が長いです(笑)。
兵庫でのオペラは、佐渡さんによる雄大なオーケストラの指揮、演出やダブルキャストの歌手、豪華な装置などここでしか味わえないものがたくさんあり、ここで多くのお客様の声援を浴びることは歌手冥利につきます。
PACオーケストラは一つ一つに対する集中力が素晴らしい。佐渡さんの手腕もあり、一体感があって歌いやすく、アンサンブルを一緒に作っていけます。
合唱も非常にクオリティが高いので、『オランダ人』では大きな聴かせどころとなるでしょうね。

演出家のテンメさんとは2018年「魔弾の射手」でご一緒されました。

テンメさんは忠実に作品のテーマを再現される方で、視覚的にも技術を駆使して効果的に表現されるので、「これぞドイツ・オペラ!」という世界観を、映画を見るように楽しめると思います。演出に際してはオーソドックスなスタイルながら、歌手と話し合いながら作品の背景を紐解いていくという基本的な作業を着実にされます。オランダ人の苦しみや救済がどのように昇華されるのか、これから一緒に作っていくのが楽しみです。

公演がますます楽しみになるお話を、ありがとうございました!

 

■公演情報■
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2025「さまよえるオランダ人」

【全3幕/ドイツ語上演・日本語字幕付/新制作】
2025年7月19日(土)~27日(日) ※22日、25日は休演
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

■「さまよえるオランダ人」特設ウェブサイトはこちら■

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