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2025.05.01
「この役はこの人で聴きたい」が全て揃った公演──田崎尚美(ソプラノ、ゼンタ役)インタビュー

2022年上演・新国立劇場『さまよえるオランダ人』ゼンタ役をはじめとし、ドラマティックな歌声で全国的に活躍されているソプラノの田崎尚美さん。1月におこなった記者会見では、ビデオメッセージで、プロデュースオペラ初出演に向けての意気込みを語ってくださいました(田崎さんのメッセージも掲載!記者会見レポートはこちら)。今回はさらに、田崎さんのパーソナリティを深掘りする内容についてお聴きしました!
「東京・春・音楽祭2025(※毎春、東京文化会館で開催する国内最大級のクラシック音楽の祭典)」の真っ只中、お忙しいところありがとうございます。同企画内、現在公演中の『こどものためのワーグナー』では、初開催となった2019年『さまよえるオランダ人』(ゼンタ役)以降、毎年のように出演されていますね。田崎さんにとって、ワーグナー作品はどのようなレパートリーなのでしょうか?
『こどものための~』は、最初のうちは完全に手探りでした。衣裳も、フリマサイトで探し出してきたものをアレンジして着せていただいたりして。2019年の初回は、マエストロ、ピアニスト、演出助手もバイロイトの方々でした。立ち稽古の初日からカタリーナさん(※同企画の監修/芸術監督。リヒャルト・ワーグナーの曾孫にあたり、2015年からはバイロイト音楽祭の総監督を務める)がいらっしゃって、本当に一から作り上げたという思いがあります。『オランダ人』は、そういう意味で、私にとっても非常に思い出深く、特別な作品ですね。
同『こどものためのワーグナー』公演は、子どもが楽しめるよう、作品を再構成されているとお聞きしました。田崎さんが、子どもにも伝えたいワーグナーの魅力とは何でしょうか?
いわゆる日本で観られる「オペラ」をイメージすると、まるでまったく違うもののように映るかもしれませんが、現地・バイロイトで上演されている「本家」の子ども公演は、お子様にわかりやすく、お芝居の要素を多めに仕上げています。大胆に歌唱をカットして、キャラクターをしっかり見せて、わかりやすく台詞で伝えようとアレンジしているのです。これが、ものすごく面白い。海の大きなうねりや、効果音のすべてを、楽器を使って生でやっているというのが、ワーグナーの一番の魅力じゃないかと感じます。そうした魅力が、子どもにも伝わるんでしょうね。映画音楽の劇伴などでは実感しづらいかもしれないけれど、楽器の力で、嵐の情景、海の荒れ方などがすべて表現されている。
ワーグナー作品というと、なんというかこう、終止しない、長調へいったり短調へいったりと、着地点がないままふわふわと浮いているようなイメージをもたれるかもしれませんが、今の若い人たちの感性にこそ、一番刺さりそうな演目が『オランダ人』じゃないかと思うんです。子どもに限らず、ワーグナー初心者だという方にも、一度見てもらえれば、すべての情景が音で表現されているという魅力が伝わるのではと。
バイロイトでも、上演作品のうちで最初の作品が『オランダ人』なので、ぜひ最初に見るべきものじゃないかなとも思います。ワーグナー作品の中では比較的短いですし(笑)。
記者会見の際、これまで5つのプロダクションで『さまよえるオランダ人』ゼンタ役を務められたとお聴きしました。ゼンタのことを「“推し”のためにまっすぐ生きる夢見る少女」とも表現されていましたが、ご自身と比較して、異なる部分、あるいは重なる部分などはありますか?
正確には、カヴァーキャストで関わった公演も含めて5プロダクションに関わらせていただきました。私は、結構リアリストなんです。そういう意味で、愛のために命を投げ打つゼンタは、ちょっと遠いなとも感じます。だからこそ、自分が「こうなりたい」と思った通り、まっすぐに進んで、夢を叶えてしまうゼンタには、憧れる面もありますね。現代においてはなかなか難しいことかもしれませんが、彼女のように、できれば夢を見ていたいなと。ただ、もし自分の子どもがゼンタのようになっていたら、全力で止めるかなとは思います。
重なる部分と言えば──実は私も、「推し活」に夢中なんです。父の影響で将棋好きだったのですが、一緒にやってくれる人もおらず……いわゆる「観る将」になりました。でも、2023年に、クラシック音楽好きとしても有名なプロ棋士、佐藤天彦九段と対談させていただく機会があり、ちゃっかりサインもいただきました。今年もあと一歩で名人戦への挑戦があったり、楽しく応援させていただいております。他にも、推しのお笑い芸人のファンクラブに入っていたり、そのコンビの聖地巡礼をしたり、最近は推しのクラシック歌手もいます。
推しと言えば、私は声種だとバスの方の歌声がとても好きなんですね。バスって、声種でいうと、私が歌うソプラノとは一番遠い音域になるわけです。だからこそ、私には絶対出せない音域が推しです。趣味と実益を兼ねている部分もあって、たとえば、歌うときに「高い音でこの色が欲しい」と思っても、思っている「色」が出ないという時には、1オクターブ下、2オクターブ下で歌っていらっしゃるバスの方は、どういう母音の色で音楽を繋げているのかと聴いて、勉強することがあります。いい歌声を聞くことはとても勉強になるし、癒しにもなります。
共演者についてはいかがでしょうか?
私にとって、この公演は、「この役はこの人で聴きたい」という方が全員揃っている公演なのです!適材適所といいますか、髙田さんはもちろん、安定感抜群の妻屋さんをはじめ、宮里さんの初ワーグナーが聴けるのも嬉しいです。今から稽古がすごく楽しみです。まさに推し活をしている気持ちですね。
当センターのお客様へ向けてメッセージをお願いいたします。
私は、本当であれば、推しのライブには全日程通いたいと思っています。それが生の舞台の良さだと思うのですが、複数公演ある場合は特に、湿度や、歌手のコンディションによって、毎公演、変化があるんです。ライブ感というか──帽子を落としちゃった時など、アクシデントにどう対応するかとか。その時、その場に居合わせるということが、生ならではの楽しみ方だと思うんです。ぜひ、お時間のゆるす限り、複数回お越しいただきたいと思います。
ありがとうございました!
■公演情報■
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2025「さまよえるオランダ人」
【全3幕/ドイツ語上演・日本語字幕付/新制作】
2025年7月19日(土)~27日(日) ※22日、25日は休演
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
★田崎さんの出演は20、23、26日です。