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2025.06.20
関連企画≪「さまよえるオランダ人」ワンコイン・プレ・レクチャー≫を開催しました!

500円で気軽に楽しくオペラの予習ができる毎年好評のワンコイン・プレ・レクチャー。今年は、指揮者・合唱指揮者・作曲家としてご活躍の三澤洋史(みさわ ひろふみ)さんを講師にお迎えしました。三澤さんは1999年からの5年間、世界最高峰のワーグナー音楽祭として知られるバイロイト音楽祭で、祝祭合唱指導スタッフの一員として従事された経験をお持ちです。
今回のテーマは「ワーグナーの底知れぬ魅力!」~『さまよえるオランダ人』を“さまよわない”ための道しるべ~。
お話の内容を一部ご紹介します!
講師の三澤洋史さん
ワーグナーとヴェルディは同い年。ふたりの人生を比べてみると…
実は三澤さん、日本ワーグナー協会評議員であると同時に京都ヴェルディ協会の理事でもあります。お話はワーグナーと、「椿姫」などのオペラで有名なヴェルディの人生を比べてみるところから始まりました。この二人はともに1813年生まれなのだとか。
堅実なヴェルディは劇場と契約し、報酬の額を決めてから作品を書き始めました。音楽で成功し財をなし、イタリアで最高の地位を得、議員になり、晩年には「音楽家のための憩いの家」を建てます。そして死後はこの家を自身の著作権収入で運営できるよう、取り計らっていたのだそうです。
一方、ワーグナーは対照的で、若いころから借金を抱える人生。バイロイトに自分の作品を上演するための祝祭劇場を作りますが、公演は赤字続き。それなのに自宅に高価な家具を揃えるなど散財も平気で、公演が成功しまとまった収入を得ても、すぐに使ってしまったのだそう。最期は自分の浮気が原因で夫婦喧嘩となり、その最中に心臓発作で絶命してしまったと言われています。
ヴェルディの人生と比べるとワーグナーの生涯は不幸続きに見えますが、窮地に手を差し伸べたピアニストのフランツ・リストや、彼の音楽を熱烈に支持したバイエルン国王ルードヴィヒ2世など、彼を支える人々の存在もありました。バイロイト音楽祭は彼の亡きあと、妻や息子、孫たちが引継ぎ、世界的な音楽祭へと成長を遂げていきます。また現代でもワーグナーの音楽の熱烈なファン、“ワグネリアン”と呼ばれる人々の存在はよく知られています。
ワーグナーの人としての魅力、音楽の魅力、そして家族が守り育てた音楽祭のエピソードに、会場の皆さんは熱心に耳を傾けていました。
三澤さん自身、ワーグナーが大好きな“ワグネリアン”だそう
「さまよえるオランダ人」誕生のきっかけは、飼い犬の存在?
三澤さんのお話は「さまよえるオランダ人」へと移ります。
ワーグナーがこの作品をいつから構想していたのかは諸説あるそうですが、ロシア(現在のラトビア)の港町リガの歌劇場にいたころではないかと言われています。当時、海にさまよう難破船の伝説はあちこちの海沿いの町にあったそうです。
1839年、26歳のワーグナーはリガの歌劇場を解雇され、借金を背負い、パリに移ることに。ワーグナー夫妻は陸路ではなく、航路での移動を選びます。連れて行く飼い犬への負担を考え、船のほうが楽だろう…という理由からだったとか。
航海中、ひどい嵐にあったワーグナーは大きく揺れる船上で必死で手帳にメロディを書き、無事パリに到着したのち、台本を書き始めたそうです。
もしワーグナーが犬を飼っていなかったら…船ではなく陸路で移動していたら、「さまよえるオランダ人」という作品は生まれていなかったかもしれませんね!
三澤さんは「さまよえるオランダ人」の解説のほか、バイロイト音楽祭の裏話も紹介してくださいました
「さまよえるオランダ人」を楽しむポイントは、3つのモチーフ
ピアノの前に移動した三澤さん、「さまよえるオランダ人」に登場するモチーフ(テーマ)を弾いたり、オーケストラの演奏を流したりしながら鑑賞のポイントを紹介してくださいました。
ひとつめのポイントは<オランダ人のテーマ>。勇ましい、ファンファーレのようにも感じる旋律です。後半は二つの音が複数回繰り返されます。ふたつめは<ゼンタのテーマ>。伝説のオランダ人に憧れを抱く娘・ゼンタのテーマはとても優しく、<オランダ人のテーマ>とは対照的な旋律です。<オランダ人のテーマ>の後半の二音の繰り返しは、<ゼンタのテーマ>にもあらわれます。
「オランダ人のテーマとゼンタのテーマ、そして後半の二音の繰り返しのモチーフ、この3つを覚えておけば大丈夫です」と三澤さん。物語の進行に合わせてこれらの旋律が繰り返し登場し、特に<二音の繰り返しのモチーフ>はさまざまな場面で頻繁にあらわれるそう。
ワーグナーのオペラ作品の特徴は<モチーフづかい>にあるとのこと。後の作品になるほど、たくさんのモチーフが使われ、それらが複雑に絡み合ってワーグナー独特の世界が創り上げられていきます。初期の作品である「さまよえるオランダ人」は後期の作品に比べ構成がシンプルでわかりやすく「ワーグナー入門にぴったり」というわけです。
楽譜を投影しながら、<オランダ人のテーマ>をピアノで演奏する三澤さん
三澤さんは、祝祭合唱団指導スタッフとしてかかわったバイロイト音楽祭で「さまよえるオランダ人」の上演を2度経験。それぞれに演出やセットが異なる様子も紹介してくださいました。
いよいよ来月に迫った本公演。佐渡裕芸術監督プロデュースの「さまよえるオランダ人」はいったいどんな世界になるのでしょうか。どうぞご期待ください!
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2025 歌劇「さまよえるオランダ人」
2025年7月19日(土)~27日(日) 全7公演 各日2:00PM
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
公演の詳細はこちらから