News最新情報

2023.02.17

「ドン・ジョヴァンニ」題名役 大西宇宙(たかおき) スペシャル・インタビュー

「ドン・ジョヴァンニ」題名役 大西宇宙(たかおき) スペシャル・インタビュー

ドン・ジョヴァンニは、今、いちばん歌いたい役

“いま、最も多忙な日本人オペラ歌手の一人”といえる活躍をしている大西宇宙さん。
米国ジュリアード音楽院、シカゴ・リリック歌劇場を経て、2019年の日本デビュー後は様々な舞台への出演が続いており、評価は高まるばかり。今回のドン・ジョヴァンニ役には、すでに多くのオペラファンから期待の声が寄せられています!躍進する逸材のこれまでの歩みと、本役への意気込みを聞きました。

オペラへの道を切り拓き、渡米後、間もなくニューヨークでも話題に

−オペラの道を志したのはいつ頃からですか?
中学・高校の吹奏楽部でチューバを吹いており、その演奏曲からオペラやミュージカルに興味を持ち始めました。面白いと思ったのは、複数人で違うことを歌いながらストーリーが進んでいくところ。楽器とは違う音楽の魅力に衝撃を受けました。その究極のかたちがオペラだと思ったのです。

−その後武蔵野音楽大学で学ばれ、大学院在学中に最優秀賞を受賞したコンクールを機に米国ニューヨークにある名門ジュリアード音楽院に進まれました。
2010年に渡米しましたが、初めは英語が得意ではなく苦労しました。そんな中、留学1年目に、学内で2名だけが選ばれる栄誉者リサイタルに選出され、学内外で話題にしていただけるようになりました。

−映画、演劇の本場である米国ではオペラ歌手の育成においても演劇的なトレーニングを重視していると聞きます。
ジュリアードには演劇の学科もあるので、演技指導の先生がオペラ科の学生にも授業をします。そこではシェイクスピアやチェーホフの戯曲が扱われ、「ハムレット」の長大な独白を発表の場で披露するという経験もしました。英語がネイティブではない自分にとっては挑戦的でしたが、糧になった経験でした。
また、お世話になったコレペティトゥアの先生が「Text is everything(歌詞こそがすべて)」と常におっしゃっていたように、オペラでも台本が先にあるということ、言葉を伝えることの重要性を、深く学びました。

2019年2月ニューヨーク・カーネギーホール シベリウス「クレルヴォ交響曲」題名役

2019年8月セイジ・オザワ 松本フェスティバル チャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」題名役

−その経験が生き、日本デビューは代役で出演した、セイジ・オザワ 松本フェスティバル「エフゲニー・オネーギン」題名役で成功を収められました。
日本ではオペラの上演機会自体が少ない中、注目度の高い公演に、しかも自分に合った役でデビューを果たせたことは良かったですね。

−その後の日本での活躍は目覚ましく、2022年は数多くの作品に出演されました。多彩な活動の中、意識されていることはありますか?
挑戦的な作品も含め、幅広いレパートリーを持つことと同時に、長く歌い続けていくために、声に合った作品を選ぶようにしています。米国では声に合うレパートリーを歌うことが教育において重視されていて、慎重に役を選ぶように教えられました。イタリア語、フランス語のオペラといった言語での分類ではなく、役ごとに、その時の年齢なども考慮して選ぶのです。
今後はヨーロッパの歌劇場も含め、世界の様々な舞台で歌い続けていきたいので、長期的に考えて自分のキャリアに適しているかを見極めるようにしています。そのために、仕事を受けるときには米国のマネージャーやヴォーカルコーチに相談しています。マネージャーは世界的な歌手も手がける辣腕ですし、二人とも自分の声を良く分かってくれているので信頼して助言を受けています。

2021年12月 芸術文化センター「ジルヴェスター・ガラ・コンサート」では、ヘンデルのオペラ・アリアを披露。

機は熟した。今こそ歌うべき「ドン・ジョヴァンニ」

−そうして着実にキャリアを築いておられる大西さん、では、今回の「ドン・ジョヴァンニ」は今のご自身にとってどのような役でしょうか?
今いちばん歌いたい役です! まさに今、というタイミングでお話をいただきました。
これまでに、学生オペラや抜粋でこの役を歌ったことはありますが、プロフェッショナルな舞台で全幕を歌うのは、今回が初めてです。
この役を歌う上では、格好いいだけではなくて、カリスマ性、そして魔力が必要です。また、アジア人として米国でオペラを仕事にしていると色々と感じることもありましたが、ドン・ジョヴァンニは人種に関係なく、人間としての魅力を出すことが求められる役です。“究極の役”と言えるでしょうか。
モーツァルトのオペラを勉強して心得たのは、当時は革命もあり、人間としてどう生きるかが問われた激動の時代であったということ。ある意味、それまで支配者階級であったドン・ジョヴァンニが逆境に立たされ、その中で強い人間性を持った。そういう人物像を表現できればと思います。

−今回が芸術監督プロデュースオペラ初登場、佐渡裕芸術監督とも初共演ですね。
2014年のプロデュースオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」に出演したスザンナ・フィリップスさんとカーネギーホールで「ドイツ・レクイエム」を共演した際に、彼女から「兵庫は素晴らしいプロダクションだ」と聞いていました!
佐渡さんには、18歳くらいの時に演奏会でサインをいただいた経験があります(笑)。当時、日本人も世界的に活躍できるのだということを強烈に印象付けられた、憧れの存在でした。今回、私の声を聴いていただいて出演できることになり、嬉しく思います。

−演出家やほかの歌手の方々とはいかがですか?
演出のデヴィッド・ニースさんのプロダクションには参加したことがあり、以前から私のことを気にかけてくださっていました。
今回、もう一組でドン・ジョヴァンニ役を務めるジョシュア・ホプキンズさんとはシカゴで共演したこともあり、またお会いできるのが楽しみです。
同じ組にも今までに共演した方が何名かおり、特にレポレッロ役の平野和さんとは地元が同じという縁もあります。ウィーン・フォルクスオーパーで色々な経験をされていますし、レポレッロは当り役。私の方が後輩ですが、主従役を演じるのが楽しみです。

−最後に、お客様へのメッセージをお願いします!
「ドン・ジョヴァンニ」は私にとって特別な役。ぜひ、舞台のすみずみまで見てください!

−ありがとうございました!

pagetop