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2023.10.11

ヘンデル「メサイア」濱田芳通(指揮)&中山美紀(ソプラノ) インタビュー

ヘンデル「メサイア」濱田芳通(指揮)&中山美紀(ソプラノ) インタビュー

「器楽と声楽による劇音楽」のうち、演技を伴うものが「オペラ」、そして伴わないものが「オラトリオ」です。オペラの作曲家として成功したヘンデルは後年、「オラトリオ」に注力し、そのスタイルを確立しました。なかでも傑作として名高い『メサイア』が11月25日に上演されます!
指揮を執るのは、“作品が生まれた時のスピリット”を大切にし、指揮者、リコーダー・コルネット奏者として活躍する濱田芳通さん。古楽アンサンブル・アントネッロを率い、芸術文化センターでひときわエキサイティングなオラトリオ「メサイア」を上演します。ソプラノ独唱と合唱を務める中山美紀さんとともに、作品や演奏について、興味深いお話をお聞きしました。

音楽に物語が凝縮されているからこそ、オペラより劇的!
ヘンデル:オラトリオ「メサイア」

−2021年に川口市で初演されたアントネッロ版の「メサイア」。濱田さんがこの曲に取り組んだきっかけを教えてください。
濱田:私は、中学生の頃に惹かれて勉強してきたルネサンス音楽(15~16世紀頃)から初期バロック(17世紀前半)を主に演奏しているのですが、ヘンデルの「メサイア」(1742年初演)は後期バロックの作品ながら、父(指揮者・濱田徳昭1929-1986)のレパートリーであったことから、死ぬまでには取り上げたい曲でした。
多くの音楽家は古典派やロマン派からさかのぼる視点で、バロックをよりシンプルな音楽だと見ているかもしれませんが、私のようにルネサンスの視点から見れば、後期バロックは調性などが複雑な、“最新の音楽”のように感じます(笑)。歴史的に考えると、前の時代の感性で当時としては“新しい”バロック音楽を演奏することで、作品が生まれた時のスピリットを伝えられると思うのです。


「メサイア」ハイライト映像 2021年川口総合文化センター・リリアでの公演より

−その初演ではサントリー音楽賞を受賞するなど評価され、“斬新な演奏”と話題になりました。
濱田:初期バロック以前には、より即興性に富んだ音楽が演奏されており、ヘンデルの時代でも、演奏の度に状況に合わせて楽譜が書き変えられていました。一方、今の古楽演奏では“こうあるべき”という学術的な考証にとらわれることで多くのものが失われています。そこに一石を投じました。
芸術に携わる以上、他にはない演奏をしたいとは思いますが、古典を扱う者として、決して過去に培われたものを覆そうとしているわけではありません。ただ、“楽譜に忠実である”ということは、“楽譜に書いてあることだけを演奏する”のとは違います。楽譜は設計図のようなものですから、当然、作曲家の脳内にありながら書ききれなかったこともたくさんあります。それを研究に基づいて浮かび上がらせ、強調しているのです。

あらゆる音楽を理解するとき、リズムの取り方が特に重要です。例えば、ヘンデルは楽譜には明示していませんが、読むと明らかにガヴォットなどの舞曲のリズムが「メサイア」には多用されています。それをデフォルメして演奏することで、楽曲の劇的さが増します。
また、ポリリズム(※)を使って当時のリズム感を掘り起こしています。後世の西洋人、そしてバロック以降の西洋音楽を取り入れた今の日本人もこのリズム感を失ってしまっているのですが、実は、日本人は元来、世界一リズム感の良い民族なのではと思っています。ですから「メサイア」のリズムは、私たち日本人の血を呼び起こす、胸躍るものであるはずです!
※ポリリズム=2拍子と3拍子など、異なる拍子を持つリズムが同時に進行すること

−様々な古楽の声楽作品を歌われている中山さんから見て、濱田さんの独自性はどこにありますか?
中山:何より、音のエネルギー感を大事にされています。表面的なことではなく根源的なことを求められていて、妥協がありません。メンバーが一致団結して繰り返し練習を重ね、濱田さんの生み出すリズム感も相まって生まれる高揚感は日本でここだけかもしれません(笑)。
また、声楽家の発想と違い、歌詞よりも先にメロディから表現を考えられるのですが、むしろ音楽を重視することでより歌詞が浮き出て歌の内容が伝わるのがすごいです!

−通常は独唱4名と合唱が歌う「メサイア」ですが、アントネッロ版では17名の歌手が合唱も独唱も担いますね。

中山:独唱は、それぞれの歌手に1~2曲ずつあります。濱田さんが各歌手に合う曲を割り振られていて、装飾のつけ方も指示されているのですが、それが本当に皆にぴったりで。まるでヘンデルが各曲を私たちに“アテ書き”で書いたようです!色々な歌手の声でソロ曲を聴くことで、より劇的に物語をお楽しみいただけると思います。また、アルトのパートをカウンターテナーが歌うのは圧巻ですよ!

濱田:女性が自分にとって低い声で歌うより、男声が高い声で歌う方が高いテンションがかかり、力強くなるのです。

−ヘンデル、そしてオラトリオの魅力は?
中山:私が古楽に取り組むきっかけになった作曲家なのですが、音楽がオープンマインドですね。単語が音楽によってデフォルメされることで、喜びなどの感情がより伝わってくるようです。

濱田:ヘンデルはオペラの作曲家でしたが、政治的な制約でそれらを上演しにくくなり、演技を伴わないオラトリオを作曲するようになりました。オラトリオは演技がつかない分、音楽が刺激的!だからこそオペラよりも劇的です!
現代では、ヘンデルといえば儀礼的で高尚な音楽というイメージがありますが、アントネッロ版はもっとワイルドで親近感があり、聴く人が自分のものとして感じられる演奏です。当時の一般の人々も、この音楽を身近に感じていたのではと考えています。

−最後に、お客様に「メサイア」の愉しみ方を教えてください!

濱田:メサイア(救世主=キリスト)という一人の人物の生涯を描く物語としてとてもよくできていますから、オペラを観るのと同じように物語を楽しめます。字幕も付くので、この劇的さを感じていただけるはずです。

中山:私たちが群衆として歌う合唱など、聴いている方もその感情を追体験できるようなところがあります。初演時に感じた熱量を、兵庫の皆さんもご一緒に体感していただければと思います!

■公演情報■

11月25日(土) 濱田芳通&アントネッロの「メサイア」
【G.F.ヘンデル:オラトリオ「メサイア」HWV56(全曲/字幕付)】

指揮:濱田芳通

独唱・合唱
ソプラノ:大森彩加※・金沢貴恵・陣内麻友美・中川詩歩・中山美紀
アルト(カウンターテナー):上杉清仁・中嶋俊晴・新田壮人・彌勒忠史
テノール:小沼俊太郎・田尻 健・中嶋克彦・前田啓光
バス:坂下忠弘 ・谷本喜基・牧山 亮・松井永太郎
管弦楽:アントネッロ
バロック・ヴァイオリン:天野寿彦・廣海史帆・大下詩央・阪永珠水・遠藤結子・佐々木梨花
バロック・ヴィオラ:丹沢広樹・本田梨紗
バロック・チェロ:武澤秀平
ヴィオローネ:布施砂丘彦
バロック・オーボエ:小花恭佳
ナチュラル・トランペット:阿部一樹・小野美海
ティンパニ:井手上 達
テオルボ:高本一郎
チェンバロ:曽根田 駿
オルガン:上羽剛史

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