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2023.11.21
ヘンデル「メサイア」濱田芳通(指揮)演奏ノートを特別に公開!
いよいよ11月25日に上演が迫った濱田芳通&アントネッロの「メサイア」。
当日の配布プログラムに記載している、指揮者・濱田芳通さんの演奏ノートを、公演に先がけ特別に公開します!洞察に富んだ興味深い内容で、公演がますます楽しみになることは間違いありません。ぜひご覧ください!
演奏ノート
そもそもはラッパ少年だったので、子供の頃、父の指揮する《メサイア》を聴きに行くと「ラッパが鳴って(The trumpet shall sound)」のトランペット・ソロがいつも楽しみだった。
ヨハネの黙示録では最後の審判の時にトランペットが鳴り響く。《メサイア》のこのトランペットの場面もまさに最後の審判のラッパであり、バスにより歌われる長大なアリアは《メサイア》のクライマックスの一つと言えよう。(なぜ「一つ」かというと、《メサイア》にはクライマックスが沢山あるのです!)
そして、今回も副題として、「彼らの声は全地に響き渡り、その言葉は世界の果てにまで及んだ」という歌詞の一節を掲げさせて頂いた。これは台本作家のジェネンズが序文などでも強調している内容で、本演奏ではソプラノのアリアの中間部、テノールのアリオーソ、そして合唱曲において、このテキストをしつこく3回繰り返し、意味合い的なクライマックスを設定した。
その他、構成感を考えるには、彼の台本の特徴を捉えるのが何より重要だろう。巷で言われているミサ形式との類似性はその通りだと思う。これはキリエ~グローリア~クレドなど、いわゆる楽章分け的な構成を感じるのに役立つ。これでいくとハレルヤはサンクトゥスにあたるが、まさしくそんな印象ではないか。
逆に、曲と曲との関連性については、ジェネンズは全ては「成し得たこと」と捉えており、このことは私にとって、物語性や「今」を感じさせる臨場感を引き出すには却って難しい要因となってしまった。《メサイア》はずいぶんと客観的な「後日談」なのである。しかし、そうなった原因は何だろう?ジェネンズ自身がここに出しゃばった結果ではなかろうか?そう考えると、こんなにも脚本家の一意見、意思が入り込んだ宗教曲を私は他に知らない。聖書の言葉なのに、まるでジェネンズが熱く語っているかのようである。なので、曲の進行に関しては彼の哲学とも言える宗教観をデフォルメしながら様々な解釈を試みた。
さて、フィグーラ*については、作曲家が非常に具体的に、ポジティブに楽しんでいるところだと思うので、《メサイア》に限らず常に強調するよう心掛けている。曲全体としては、私は「鐘」のモチーフを感じる。この曲が「クリスマスにピッタリ!」のような印象を受けることにも通じているかもしれない。
*フィグーラ=音楽の表現する内容を聴き手に伝えるために用いる特別な音の使い方や音型
例えば、第4曲目「このようにして主の栄光が現わされ」の3つのテーマや、第8曲目「シオンに良い知らせを伝える者よ」では、3度上行&2度下行の音型が登場し、これは、マラン・マレを始めとしてよく使われる鐘のフィグーラである。第8曲目では、天から良い知らせが地上に降りて来て鐘が鳴り、そこでは6/8の曲でありながら、9/8的に3回象徴的に鳴り響き、拍子感も崩れる。
このように全曲を通じて非常に「鐘」を感じるところが多い。鐘はある意味、神と我々人間の橋渡しを担っているかのようである。
歌詞における単語がフィグーラを形成していることに関しては枚挙にいとまがない。早速だが、序曲が終わって2曲目レチタティーヴォでは、
Comfort →「慰める」感じの付点の下降音型。
God →上行した末のアクセント音として強調している。
cry & crieth →急に上行して「叫んだ」感を出している。
pardon’d →前の音で思わせぶりタップリの後、急激な下行後の低音で「赦された」感を表現している。
続くアリアはもっとすごい!
Ev’ry valley →いかにも「谷は持ち上げられた」感じの上行音型。
Ev’ry mountain →上行下行で「山」の形をしている。
made low →一直線の下行音型である。lowはちょっと飛んで更に低さを強調している。
crooked →2度の上下動の繰り返しだが、器楽ではトリルを付けてデコボコ道路感を出している。また、違う箇所では4(3)度上行と下行で更に凸凹感を出している。
rough →上記の4度〜の動きを2回繰り返している。
straight →ロングトーンで真っ直ぐ感を出している。
plain →ロングトーンとなだらかな遅い動きで「平ら」な感じを出している。
以上、出だしの2曲のみだが、このようなことが全曲に渡って行われており、ヘンデルにとってメロディー創作のきっかけとなっている。このことは主に音の高低に関わるので、即ちメロディーの位置エネルギーの話であり、本質的な重要事項とも言えよう。
舞曲からのアプローチも重要であると思う。目立ったところでは、ガヴォット、ジーグ、シシリアーナで、それぞれにアントネッロとして独自の解釈をしている。
ガヴォットが3拍目から開始されなければならないことは特にヘンデルでは全く賛成できないし、そうでないことは明らかだ。このことにより、この愛らしい舞曲を随所に散りばめることが出来るし、ヘンデルが大きなオフビートで曲を捉えていた可能性も否定できなくなる。また、ヘンデルもご多分に漏れずフレーズが3拍目で頻繁に終止するが、この習慣についてもガヴォットとジーグとの関連性で考えることができる。
3/4で書かれてはいるが、シシリアーナの様相が強い曲では(シシリアーナは通常6/8)、シシリアーナとメヌエットが一曲中に混在しているのではと考えた。このことはかなり皆様の耳には奇異に聞こえるだろう。
ついでに風変わりなポイントとして、普通はとても早いテンポで演奏される第21曲「まことにこの方は私たちの病を負い」と、第29曲「しかし、あなたは私の魂を」は、ヘンデルの表記にあるように、ラルゴとアンダンテ・ラルゲットというより遅いテンポを守った。恐らく「遅いな!」という印象を持たれると思う。
他にもヘンテコに聞こえるところはきっと多い。いや、全部かも知れない‥‥。でも私にとっては全て至って普通なことであり、それがいつも大きな問題なのである。
以上のような感じなのですが、今日は、是非とも最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
濱田芳通
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■公演情報■
11月25日(土) 濱田芳通&アントネッロの「メサイア」
【G.F.ヘンデル:オラトリオ「メサイア」HWV56(全曲/字幕付)】
指揮:濱田芳通
独唱・合唱
ソプラノ:大森彩加※・金沢貴恵・陣内麻友美・中川詩歩・中山美紀
アルト(カウンターテナー):上杉清仁・中嶋俊晴・新田壮人・彌勒忠史
テノール:小沼俊太郎・田尻 健・中嶋克彦・前田啓光
バス:坂下忠弘 ・谷本喜基・牧山 亮・松井永太郎
管弦楽:アントネッロ
バロック・ヴァイオリン:天野寿彦・廣海史帆・大下詩央・阪永珠水・遠藤結子・佐々木梨花
バロック・ヴィオラ:丹沢広樹・本田梨紗
バロック・チェロ:武澤秀平
ヴィオローネ:布施砂丘彦
バロック・オーボエ:小花恭佳
ナチュラル・トランペット:阿部一樹・小野美海
ティンパニ:井手上 達
テオルボ:高本一郎
チェンバロ:曽根田 駿
オルガン:上羽剛史